中田悟 自然録音のマエストロ、サウンドアーテイスト
中田さんが、昨年の9月6日に亡くなっていたというのを、仕事をお願いしたくて電話して知った。
ショックというには、あんまりにも、喪失感が大きくてずっと中田さんの事ばかり想った。
もう中田さんと一緒にロケに行けないのかと思うと悲しい。
中田さんは、自然音の録音の職人であり、ミュージシャンであった。僕は20年くらい前にst.gigaって
いう衛星放送のラジオ局で知り合った。
その局は、自然音と音楽のミックスを常時流していたもので
当時のニューエイジブームにのり作られたものだ。
そこで彼は世界中を旅して、蚊や虫に刺されようと
ジャングルの奥にマイクを置き、自分の動物としての気配を消して自然界の音を収録していった。
マイクをある方向に向けてヘッドフォンでジャングルの景色を見ていると、自分の感覚器官のうち、
目と鼻と耳があって耳が凄く重要なのがわかる。
そして目をつむり、音の世界に入ると、そこは自然、地球そのものになる。
すごく感覚がチューニングされて、少しの変化がわかるようになる。
そういう世界に住んでいた唯一の人、それが中田さんだった。
あそこまで自然と同化すると、人は魂のように意識だけになれる。そして、鳥の話し声や
内容はわからないにしても、家族構成まで中田さんは知っていた。どんな音を聞かせても
ああ、これは、秋ですねとすぐにわかった。ハワイに一緒に行った時は撮影隊はうるさいから
他の場所に好きに行ってもらって、夜、合流した。どうでした?と尋ねると、きまってにっこりして
笑顔で、聴きます?とヘッドフォンを渡してくれるのだった。そして、耳をあてると、そこには
宇宙が録音されていた。
屋久島に一緒に行った時にはビーチの波の上に身体を置き、背中にDAT が入ったリュックをしょい、
両手に2本のガンマイクを持って2時間以上、波に脚をすくわれようとも、微動だにせず、海に向かって
録音し続けている、その中田さんの背中姿が忘れられない。
編集するという事をしなかった中田さんは、ものすごい長時間の録音をしてその中から気になる
虫が一回ブーンと飛んだ音がきらいで、その2時間テープはダメとしておいているような人だった。
そしてデジタルになって、そういうのはつまめばいいですよと、コンピューターとミキサーを
仕事を作って購入してあげて、これで作業してくださいと言ったのが16年前。
でもやはり、自然だからと加工しない事に相当こだわっていて、編集はしなかったなあ。
アムビエント音楽の西条芳宏と中田さんのユニット
OPTRONIXでjourney to the dear vally鹿谷への旅というアルバムを僕がプロデユースした。
僕にとっては、はじめての音楽CDだった。
今聞いても、不変的な自然音の素晴らしさが作品を永遠なものにしている。
そして、僕の初めての映画、サムライフィクションの自然音はすべて中田さんの音だ。
水WATER というDVDは今でもGENEONで売っている。この清らかな水の音を聞いて下さい。
中田さんは、ワンカットづつ、その川の幅に合わせて、音を変えてます。
中田さんは、数々のCDを残した。中田さんが寝る時にいつも気持ちよい波の音を流していて、
お願いだから、それをCDにして出してねと言っていたものが三宅島のCDできける。
亡くなって、2枚のCD が出ていた。
一枚は、Natural Harmonicといって、携帯サイトの着うたとして、呼び出し音みたいな虫を選んだ
感じで1分くらいのものが数多く収録されている。思わず、リピートする鳥を聞いているとこれを中田
さんが、10時間聞いて、ここのパートだけ選びに選び抜いたんだなあと思って笑ったけどね。
ある意味、すごい自然音のサンプラーとして世界に類のないものになってます。
そしてBEST of the EARTH には中田さんのベストっていうか、今までの録音から選ばれた音が
入っている。これを家でかけていると、そこはその音の鳴っていた場所になってしまう。
とにかく、凄いから聞いて欲しい。そのクリアでピュアな音。そしてそこの場所の場という雰囲気。
恵比寿のガーデンプレイスの中庭で、立体音響サウンドシアター
VOICE OF THE EARTH が開催されている。7/19から8/10(日)の毎週末と祝日に
15:50 16:20 16:50の三回、約10分だけど、風が通り抜けるあの場所で目をつむって
中田悟のいた場所を感じることができます。是非、素晴らしい経験ですので、子供さんも
一緒にどうぞ。中田さんは身体はないけど、音になって空気の間を飛んでいます。
中田悟公式HPがあります。
http://www.e-photography.co.jp/nakada/